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参ノ巻 平成11年2月刊

       

 編集長対談 論客 高橋 巌 我ら内なるシャーマンを呼び醒ますときがきた
[特集]戦記を読むb生命力と死力の再発見

◎英霊たちの死の代償  ◇坂井三郎
◎『戦争論』は戦後庶民の戦記  ◇小林よしのり
◎今ダ『大和』の教訓ヲ学ビ得ズ  ◇原勝洋
◎盛者必衰のことわりをあらわす  ◇笹間良彦
◎庶民の記録『雑兵物語』『戊辰物語』  ◇東郷隆
◎蒙古襲来と日露戦争 神風の去就  ◇小杉英了
◎生と死の叙事詩b『大空のサムライ』を読む  ◇前田日明 
◎武道の中の日本 急度加減  ◇松岡正剛
●日本の美意識 始末の美学  ◇風柳祐生子
●刀剣講話 比較刀剣学  ◇高山武士
●侍の作法と嗜 第九項〜第十四項  ◇名和弓雄
●武道家のための日本武道医学/救急法  ◇S・パリッシュ
●現代版『聖中心道肥田強錬術』  ◇恩蔵良治   
●日本伝柔術の世界  ◇小佐野淳
●忍術秘伝書『老談集』
●オランダ・リングス通信 生きることは戦い  ◇遠藤文康
●<前田日明語録> 三島由紀夫の自決の理由  ◇吉田健吾
●武道・格闘技事典  ◇編集部・構成


無銘刀宣言   

 近代化とは欧米化でしかなかったのか?
封建思想としての儒教のイメージを払拭し
独自の近代化への対抗思想とすべし。
そこに武道精神の今日的役割がある。

 

【無銘刀】
 十二日、前田日明とアレキサンダー・カレリン戦の調印式が行われた。 記者会見で、「前田日明の挑戦を受けた理由は」と聞かれたカレリンから「同じアジアの人一月二間からの挑戦だったから」と意外な答が返ってきた。カレリンの生まれたノボシビルスクはウラル山脈からさらに東、モンゴルと連なるアルタイ山脈の麓にある。ロシアといってもシベリア。  「私には半分アジア人の血が流れている」と言う。  前田日明が度々、口にする「同じ東洋」という言葉と一瞬、繋がり、カレリンと前田の「同じアジア、同じ東洋」にシンクロニズムを見た。勝敗の如何にかかわらず、この二人の出会いに喝采したい。
 今巻の『編集長対談』で高橋巖さんが語っていた。中国の東北部、旧満洲、モンゴル、シベリア、朝鮮、日本が陸続きの時代の同じ文化の原点にもどり、東北アジア文化圏を作らないと、ヨーロッパ文明に、また遅れをとってしまうと。
 ユーロー圏が誕生した。欧米資本主義のアジアへの貿易、関税の要求は、米の自由化のごとく、土地と結び着いた民族の精神文化の基盤を崩壊させる戦略だということを我々は忘れてはならない。
 百年前、夏目漱石がロンドンの街角でガラスに写った己にアジアを見せつけられたように、我々もレベルの差こそあれ、外の国、ヨーロッパ、アメリカで己の存在証明を突きつけられた経験を持つ。
・異質な二つの精神性の融合に、身悶えするほど苦悩しながら、敢えて自ら兵士となり、戦地へ赴いていった」と今巻『編集長敬白』で前田日明が言う。まさに『戦艦大和の最期』の白淵磐大尉の慟哭である。
 戦後世代の私たちも、明治期から止むことのない、この宿命の慟哭を秘めている。 米国の植民地化があらわになった今、突破口を求め苛立っている。しかし、日本が陸続きだったという何万年のスパンで文明の衝突を想像したとき、心が少し和む。(杉山頴男)