■漂泊民
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海音寺潮五郎『日本の名匠』 <清麿の伝記> 佐藤寒山『日本名刀一〇〇選』 <窪田清音の清麿> を讀むと 一所に定住できぬ奔放な生涯 女性を魅了する個性 鍛冶の中で生きているシャーマンの性格が感じられる 隆慶一郎の着想も この辺りにあったのだろう 注:窪田清音{すがね} 江戸時代後期の旗本・兵学者・武術家
清麿の死 史実 嘉永七年 明治維新14年前 十一月十四日 『鬼麿斬人剣{ざんじんけん}』 冒頭 その十一月十四日 末期の言葉 江戸出奔から長州萩へたどり着くまでに打った 甲伏せ造りの作刀 全部 打ち折ってくれ 愛弟子 鬼麿に云い残して死ぬ
清麿の弟子 史実 七人 鬼麿の名は無い モデルとされる刀工も無い 隆慶一郎 虚構の人物 十四歳で清麿に拾われた漂泊民 山人の子であった 注:甲伏せ造りとは 心鉄となる極軟鉄に安来鋼{やすきはなばね)を巻く日本刀の構造製法。 安来鋼とは 国内最高の砂鉄を採取できる旧雲伯国境地域(現・島根県/鳥取県県境) で造られた鋼の総称
小川氏 ここで 漂泊民(ひょうはくみん)を説明する 土地を所有し 定住農耕で生活する「常民」 土地を所有せず 技術/芸能に拠{よ}って生活を立てていた郡民 誰からも支配されず また支配せず 古代以来 天皇家直属の民を誇りを持っていた
注:山間部で竹細工や川漁を生業としていた「サンカ」 良質な木材を求めて山を移動しながら椀や盆を作る「木地屋{きじや}」
王朝の碩学 大江匡房の談話 『江談抄{ごうだんしょう}』 淀川江口の遊女たちも この漂泊民
歴史学者網野善彦の研究で 次第にその姿を歴史の中で鮮明にしてきた 隆慶一郎 その成果を伝奇の中に存分に採り入れ小説化した
−−−−−−★−−−−−− 網野善彦 昭和53年 『無縁・公界・楽――日本中世の自由と平和』 学術書として異例の大ヒット 『異形の王権』『日本中世の非農業民と天皇』etc 拙者も数冊 讀んだ
渡辺京二/西尾幹二/福田和也ら 批判 「無縁」を「自由」と解釈するのは 「戦後左翼の切ない夢想」 小谷野敦 『日本売春史』において 網野の「遊女」像を批判 史実において そうかも知れぬが 概念において 仏教における「無縁」 無条件の平等/慈悲の想いもあるのでは
2025/09/07(日)  |
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